• RyoFujisaki

第10回 野平工房(前編)

今回は、近所にある楽器屋さん「野平工房」へ。

 



ギター、ベースの製作や修理、販売を行っているという店舗は、どこかオシャレな佇まい。店主の野平さんに、お話を伺いました。

 

店舗にある塗装ブースにて。

ギターのネックに塗装中の野平 和宏さん。眼差しは真剣そのもの。

 

 

ーー リペアや制作に携わってどのくらいでしょう?

 

野平さん:え?もう20年、、21~2年ぐらい。・・・早いよね。笑 ほんと早いわ。20年って。開業からは14年目。ここ来て何年かなあ、、ちょうど8年か。

 

 

普通の楽器屋さん・・・新品量販店と違い、リペア(修理)もメンテナンスも、すべての工程をこちらの工房で行っている。修理、調整の中でも、特に演奏性に関わるネック周りの修理に定評があるそう。

 

 

ーー 修理については、通常使っていての故障ならなんでも治るものなんでしょうか?

 

野平さん:そうだね・・・そりゃあ木材が割れることとかもあったりするから、100%元に戻らないものもあるよ。ネックが反ってこんなんなっちゃってるのとかもあるから。順反り逆反りもだけど、横に曲がってズレちゃうのもあるから。そういうのはもう、、どうにもならないでしょ?作り変えるしかないから。

 

 

ーー  そんなことまでできるんですね!

 

野平さん:まあね。でも買ったほうが安いってこともあるよ。一から作るよりも大変な修理もいっぱいあるから。もう「いくらでもお金出します」って言うんだったら、出来ないこともないけど。。笑

 

 

ーー 最近修理はどうですか?少し前はまとまった本数の楽器があったようですが・・・

 

野平さん:あんまり来ないね。だから今は製作中。これも製作途中だけど・・・オーダー来たりとか。あそこの赤いギターはもう出来てて、売約済み。あと今一本作りかけだね。あと、ボディーとネック持ち込みで「塗装と組み込みをやってくれ」って。そんな依頼もあるよ。

 

 


塗装ブースの隣には、工房オリジナルブランド「Triple Cross」の製作中の楽器が吊るされています。


成形されたボディー材やネック材を仕入れて製作する工房もあるそうですが、野平工房ではボディーやネックの切り出しから仕込み、塗装、組み上げまで、全ての工程をこの工房で行っているとのこと。

 

 

 

 

以前は、大手輸入代理店の楽器の検品も行っていたという野平さん。日本中の楽器店に並ぶ有名ブランドの楽器。代理店の仕入れた楽器は全てが検品され、必要があれば調整や修理・・・というプロセスを経ていたそう。

 

 

ーー 某ブランドの国内販売用の検品、修理業務をされていたそうですが・・・

 

野平さん:そうだね。本数はだいたい、、普通の時で50~70本くらい。多い時は1日100本ぐらいかな。入荷本数によって勿論違うからさ・・・あれはいい経験だったと思うよ。だって、おんなじモデルをさ、1日に20本30本検品するってなかなかできないでしょ?

 

 

ーー 同じモデルでも個体差というか、振れ幅があったりとか・・・

 

野平さん:あるし、、まあ木工品だからね。精度も違うしさ。だからそれは製作するときに役立ってるかな。「自分好みの音(の楽器)は、決まってココに隙間がある」とかさ。笑 だから、色々気づくことがあるでしょ?同じモデルでさ。だって、同じモデルで同じ時期に作ったギターをさ、10本20本弾けるって、普通の人は経験できないと思うのよ。店頭に同じモデルが10本20本ってあるお店はあるかもしれないけど、でも入荷が同じ時期なわけじゃないじゃん。でも、俺たちがやってたのは同じ便で来た楽器だったから。

 

 

 

検品や修理で得た経験を活かし、ご自身のブランド「Triple Cross(トリプルクロス)」の楽器を製作されている。


ブランドのコンセプトや各モデルの詳細は次回にまとめさせて頂くとして・・・エレキギターやエレキベースが、どんなプロセスを経て店頭に並ぶのか、少しだけお話を伺いました。

 

 

ーー 店頭に楽器が並ぶまでについて教えて頂きたいのですが・・・

 

野平さん:まあ中古品に関しては・・・委託とさ、うちで仕入れたのとあるじゃん。うちで仕入れたやつは、ひと通り手は掛けてやる。その楽器の、その状態で最大限弾きやすい状態には。修理屋さんだからさ。「修理屋さんでこれ売ってんの?」ってなるとマズいじゃない?笑

 

野平さん:それで、委託品に関してはそれができないでしょ?売れないで返す場合もあるから。だからまあ、基本現状で売るんだけど、、なんていうの、その「楽器が今どういう状態にあるか書かないと」とは俺は思うのね。普通の中古品屋さんって、全部まあ、なんかこう状態って言っちゃなんだけどさ、見た目は綺麗にしているかもしんないけど、ネック周り、フレットのすり合わせしたりとか、プレイアビリティ(演奏性)の部分までやってるお店って少ないじゃん?まあ、無いとは言わないけど・・・そう、そこは他のお店と違う所かな。他のお店は磨くくらいはするけど、、すり合わせしたりとか、ナット変えたりとかしないでしょ?

 

 

ーー 細かいリペアや調整が、店舗ではできない所もあるのですね。

 

野平さん:まああるよね。変な話さ、新品だからって状態が良いわけじゃないじゃん。そこにちゃんと調整できる人がいないと。弦楽器だから、弦の張力があるから、当然ネック部分が動いたりとかするわけじゃない。

 

 

ーー ちょっと保管しているだけでも、コンディションは変わっていくのですね。

 

野平さん:変わるよね。みんなが変わるとも言わないけど、変わる楽器もあるよね。新品も・・・まあ、動かない楽器もあるよ?笑 あるけど、、海外からくる楽器の検品をしてれば・・・船で一ヶ月くらいかけてきてさ、こっちに来た時にすごい状態良いままの楽器もあればさ、もう、すごいことになっちゃってる楽器も見てきてるわけじゃない。だからまあ、全部が全部動くとは言わないけど、動く楽器は動くよね。作った状態まで見てないから、元々そうだったのかもしれないし、来る間に動いちゃったのかもしれないし。

 

 

ーー お店に長期間展示している楽器も、状態が変化してしまう場合もあるということですね。

 

野平さん:あるよね。当然ね。うちだってさ、毎日調整してるわけじゃないけど、、例えばお客さんに売る前にはもう一度調整したりとか。あとは、ギターって同じ調整をした状態でも、みんなが弾きやすいってわけじゃないから、その人に合わせて調整はするよね。

 

 

ーー 具体的に、どういった調整をされるのでしょう?

 

野平さん:例えばさ、ヘビメタやる人とジャズやる人って、おんなじ設定じゃないじゃん。音だって違うしさ。ジャズやる人に弦高ベッタベタにして渡してさ、ほら弾きやすいでしょう?って言ってもさ・・・「???」っていう人の方が多いと思うのね。まあ弦が低い方が、ピッチ(音程)感は良くなるけどね。だけど、ピッチが合えばいいって問題でもないしさ。

 

野平さん:弦楽器ってほら、どこのポジションでもピッチがピッタリなわけじゃないから、なるべく合わせようっていう工夫を色んなメーカーでしてるじゃない?でもギターとしてさ、ピッチ感がいいギターって良い楽器?っていうと、それはまた話が違うじゃない。個人的には、ちょっとくらいピッチがズレてても、コード(和音)を弾いた時にちょっとピッチが合ってない感じが、俺はギターだと思うから。

 

野平さん:そういうのを大事にする人もいればさ、レコーディングとかでさ、鍵盤楽器とかピッチが結構ぴったり合ってる楽器と一緒にやった時に「ちょっとそれは許せない」って人は、ピッチ合わせたいだろうし。だからもう、それでも全然違うじゃん。そもそもギターっていう楽器がさ、どう使うかっていうのも人それぞれ違うじゃん。バンドのアンサンブルの中で使うのか、ギター1本で歌って楽しいのか、、とかさ。全く用途が違うでしょ?

 

野平さん:自転車だって、ロードバイクとママチャリ比べた時にさ「じゃあみんなロードバイク乗ったら便利か?」って、そんなことないじゃん。ね?ママチャリはママチャリの良さがあるでしょ?だからそういう、、ことだよね。音だって、良い音ってみんな統一されてるわけじゃないし、、みんな個人個人、違うでしょ?「これ良い音ですか?」って聞く人もよくいるけど・・・そもそも「良い音」の定義なんて誰もないじゃん。だからそれを、楽器一本売るにしてもさ、どういう風に使いたいかで選ぶ楽器も違うだろうし、もちろん弾きやすさだってそれぞれ違うだろうし。

 

野平さん:やっぱりさ、楽器って表現するツールのひとつだからさ、10人いたら10種類あるとは思うのね。同じメーカーの同じモデルをチョイスするとしても、使い方はみんな違うから、当然セットアップの仕方も違ってくるし。そういうのはまあ、量販店よりは当然できないとダメだろうしさ。だから、そういう意味ではプロミュージシャンも、ギター始めたばっかりの人も、区別はしてない。作業内容としてはね。


野平さん:じゃあ、みんなプロミュージシャンが使うようなセッティングで弾いたら弾きやすいかって言ったら・・・違うじゃん。笑 力だって均等に与えられるわけじゃないし、そうしたらある程度、、甘いセッティングって言ったら変だけどさ、ある程度力加減がコントロールできなくても、嫌な音が出ないようにセットアップはするし。まあ極限までコントロールできる人は、極限まで細かい音が出る方が気持ちいいだろうし。でも、それで弾き始めたばっかりの人に「どう?」って言っても、コントロールできなくて気持ち悪いでしょ?だから、そういうのはアドバイスもできるだろうしさ。量販店よりは1歩踏み込んだ所まで話せたりとか、売る時もできると思うよ。・・・まあでもそういう、ことかな。

 

 

 

店舗での営業のほか、月に2回ほど、近所のホームセンターのカルチャースクールで「ギター製作、修理」の講座を開いているそう。

 

 

ーー カルチャースクールの講師をされているそうですが・・・

 

野平さん:それはね、、楽器のリペア屋さんとか、楽器屋さんもそうだし、製作もそうだけど・・・やってることが進化しないっていうか。発想としては、最近ガソリンスタンドにコンビニがあったりとか・・・ちょっと前というか、だいぶ前からだけど。自分が子供の頃だったら考えられないことじゃん?そういうのって。だから、自分がどこかとコラボできないかなと思った時に、手っ取り早いのがそういう「ホームセンター」。ホームセンターに道具買いに行ったりするから。で、昔から「何か出来ないかな」っていうアイデアは漠然とあったわけ。

 

野平さん:で、たまたまジョイフル本田の従業員さんがうちに修理持ってきた時に、なんかそういう話を雑談でちょろっとしたわけ。そうしたら「一緒にやろうよ」って話になって・・・で、もうなんか1週間くらいで話がまとまっちゃって。「やってくださいよ」みたいな風になって。まあやったんだけど、、ギターってさ、例えばナット交換の仕方だってさ、雑誌には書いてあるよ?書いてあるけど「じゃあそれできる?」って言ったら、、そんなもんじゃないじゃん。

例えば、英語も本読んだだけで話せるようになるかっつったらさ、それを「ここは合ってる」「間違ってる」って言ってくれると、伸びるスピードは違うじゃん。楽器の演奏もそうだとは思うんだけど・・・

 

野平さん:で、そういうのを教えてくれるところってさ、もう仕事辞めて行くしかないじゃん?専門学校っていうか、そういう所しかないから・・・そういうのを趣味の延長上でね?そりゃあプロと同じようには出来ないかもしれないけどさ。触ってる時間が全然違うから。だけどほら、リペア屋さんに修理出した時に「え?これじゃあここ治ってないじゃん」っていうのに気付けたりさ。中古楽器買う時に、状態のいいのを選べる知識がつくとかさ。そういうのってやっぱり、いじらないとわかんないことだから。だからそれ、、最低限それだけでもいいかなと思って。

 

野平さん:まあ修理じゃなくて、調整だってさ。日々必要じゃない。ネックだってすぐ動く楽器だってあるし。だからそういうのを自分でできるようになったら楽しいんじゃないかな?っていう発想だよね。結果的にもう楽器作れるようになった人もいるし。家に作業場作って辞めた人もいるし。その人は・・・2〜3年いたかな?でも3,4本作ってたよ。まあ売れるかっつったら売れないけど、、でも自分で使うんだったら充分、って感じだし、上手くなってったからね。その人は仕事終わってから、自宅で毎日作業してるみたいだったからさ。だから上手くなるのも早かったし。

 

野平さん:ジョイフルは塗装ブースがないから、製作まで教えるってなると「じゃあ塗装どうするの」っていう話もあるから、だから基本的にはリペアの教室なんだけど、、でも、教えることはできるから。そうだね。そういう感じだよね。

あとは、まあもちろんリペアもやるけど、友達同士で楽器の構造まで話せる人って、そうそういる訳じゃ無いじゃん。だから、そこに来るとそういう話ができたり、音楽の話もするし。だから、それが楽しいって人もいるよね。だからまあ、目的は様々だけど。

 

 

ーー 楽器を深くやりたい人の社交場とでも言いますか。

 

野平さん:そうだね。社交場っていうか、、そうだね。笑 まあ最低限そういうのはあるんじゃない?もちろん、ガツガツやる人もいるし。それはほら。スタンスがみんなあるじゃん?

例えば弾くのもさ。弾き語りじゃないけど、家で一人でやるのが楽しいって人もいればさ、バンドやってて楽しいって人もいればさ、なんかもうプロ目指す、みたいな人もいるしさ。それはおんなじ道具だけど楽しみ方は・・・それこそ「見てるだけで楽しいです」って人もいるしさ。それは人それぞれじゃない?だからまあ、、それはそれでいいとは思うけど、、まあできればね。生徒には、自分の楽器は自分で直せるようにはなってほしいけどね。笑

 

 


 

ーー 今後やってみたい楽器や、コンセプトはありますか・・・?

 

野平さん:そうだね、、靴作ってみたい。笑

 

 

ーー 笑 それはまた・・・どうしてですか?

 

野平さん:え?靴? 万人にアピールできるから。ギターって、ギター弾いてる人にしかアピールできないけど。そういう・・・服とかさ、靴とかさ。そういう身に付けるものじゃなくても良いんだけど、みんなが使うもの。その、アプローチできるお客さんの範囲の広いもので、自分の表現もできて。その見た目と実用性がどっちもあるものっていうのは、、すっごい興味はあるんだけどね。でもまあこの年からやっても、、無理かな、とは思うけどさ。まあ興味はある。すごく。まあだからあんまり楽器にこだわりはないかな。

 

 

ーー 楽器に拘らず、いろんなモノに携わっていくかもしれませんね?

 

野平さん:俺ほら、自転車乗るじゃん。自転車乗った時にね?「あー俺時間損してたな」ってすごく思ったの。世の中にこんなに楽しいことがあるんだ!と思ったから。それを、、うん、だからまだまだきっと知らない、楽しい世界があるんじゃない?とは思うからさ。そういうものに興味はあるよ。

 

 

 

店内には「ギターの塗装を応用した」というスケートボードや、ご自身で書かれたチョークアートも並べられています。多趣味?な野平さんの作る楽器は、音も勿論ですが、デザインも一味違う、個性がそっと主張する。そんなテイストを感じました。

 

次回は、野平さんがこのお仕事をされるようになったきっかけの出来事を、いくつか振り返ってみようと思います。


取材協力:


野平工房

〒286-0221 千葉県富里市七栄85-17

営業時間 10:00~19:00 火曜定休

(月曜・第2,4土曜 14:00~19:00)

℡ 0476-33-4160

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