• RyoFujisaki

第4回 モック(前編)

更新日:2019年6月21日

 

ある日の昼下がり。ここはコーヒーの香り漂う、ちいさな憩いの場所。

 

待ち合わせだろうか、たびたび時計を気にしながらひとり、テーブルに置かれたカップを愛でる人。

仕事の合間だろうか。ビジネスバッグを椅子の脇に置き、静かに座って目をつぶる人。

遊びに出かけた帰りだろうか。コーヒーと並んで置かれたケーキを、話しながら楽しむ二人連れ。

 

・・・喫茶店。そこには本当に様々な人が出入りする。

 

 

喫茶店と聞いて、皆さんはどんなイメージを想像するでしょうか。

 

静かにゆったりと時間を過ごせる小さなお店を想像する方もいれば、街にある大手チェーンのような、若者で賑わう場所を想像する方。それは、人によって本当に様々でしょう。

 

日本に初めて喫茶店ができてから、今年でもう131年。今では、街に出ればあちこちに様々な喫茶店が立ち並んでいますが・・・今回取材をさせて頂いたのは、昔からある、街の小さな喫茶店「モック」。

 

 

始めた当初から、今までずっと “レトロな昭和の喫茶店” ・・・そのスタイルを変えずに、変わらずに営業を続けているお店のマスターに、お話を伺いました。

 

 

 




 

―― お店はずっと長くやっておられるんですか?始めたのは・・・

 

マスター「58年。昭和。・・・書いといてくんない?昭和の香りがする喫茶店って。笑」

 

 

―― それはもちろん。笑

 

マスター「完璧に昭和の喫茶店。そのまんま。変えもしない。何もしない。」

 

 

―― 時代によって少しずつ変わるお店も多いかと思いますが・・・

 

マスター「変えたくない。・・・っていうか、お金がないだけだね。笑 お金がないから変えられない。時代に合わない。合えない。ズレてんの。笑」

 

 

―― 笑

 

マスター「ねえ。みんな変わっちゃうからね。面白くないよね。たまにニュータウンにいた人がね・・・どこか転勤したり何かして、何年後に帰ってくると『変わんねえや』って。そういう人がいらっしゃいますよ。それがいいんじゃない?変わっちゃうとね。面白くないよね」

 

 

―― 同じ場所に・・・同じ雰囲気で残っているっていうのはいいですね。

 

マスター「来た人も安心するんじゃない?なんか『変なオヤジがまだいるわ』って。笑 年取ってね。一歩死ぬ手前だけど『まだやってるわ~』って。たまにいますよ。そういう人」

 

マスター「あとは空港ができたころは地方からいっぱい来てたよね。その人達がさ、来てくれる」

 

 

―― ちょうどこの通りの先が団地ですよね。

 

マスター「そうそうそう。で帰るときにね、なんかあの『お世話になりました』って。こっちは何にもお世話してないよ、って。結構そういう人たちが来たね。転勤で来た機動隊の人とか。」

 

 

―― お店をはじめられた頃っていうのは、この辺りはどんな環境だったのでしょう?

 

マスター「ここ?もともとこの辺は雑木林だった。もうほんとひどい雑木林。昭和何年だろう、、学生・・・だった頃かなあ。昭和40年代にここら辺が動き始めたんだよ。それで・・・立ち退きしたり色々なんかしたり。ほんとに荒れ地だったよ。みんな同じ。ああいう所だから出来たんじゃない?そうじゃなかったらできないよ。だいぶ変わったよね。成田空港のおかげでね。いいんだか悪いんだか」

 

 

―― お店を始められる前っていうのは、何をされていたんですか?

 

マスター「サラリーマン。サラリーマンであの、、人生外れたんだよ。笑 色々脱線してね。笑」

 

 

―― 脱線ですか。笑

 

マスター「脱線です。話を聞くまでもないよ。 俺?単なるコーヒー屋だよ。それ以外ないよ。聞かれても何もない。まあ、世の中は変わったよね。・・・失礼だけどいくつ?」

 

 

―― 私ですか?・・・28です。

 

マスター「いいねえ。羨ましいねえ。笑 28っつったら人生最高だよ。俺なんかより、俺はあんたの方が興味あるけどな。なんかあるんじゃねえかな~。面白そうだな~。笑」


 

 

お話を伺って、ひとしきりした頃。

ウエイトレスさんが注文を尋ねに来てくれました。コーヒーをお願いすると、並んだサイフォンに火が入ります。

 

 

 

 

 

―― コーヒーをおいしく淹れるコツって、何かあるんでしょうか?

 

マスター「・・・無いよ。」

 

 

―― 無いんですか?!笑

 

マスター「いいかげんだから。うん。ともかく適当にね、ずーっと変わらない味で作るのがいいんだよ、きっと。自分では。新しいやり方もあるのかもしんないけどその・・・ほかの豆を飲んでも、あー美味くねえな、って。やっぱり学生の時に飲んでたとか、そういうのがあるじゃないですか。ねえ。」

 

 

マスター「俺たちがやってた時、初めての喫茶店っていったら40円だったんだよ。今じゃ40円なんかじゃ飲めないよ。当たり前だけど。笑」

 

 

―― 今では・・・こちらはブレンドが400円ですね。

 

マスター「それが40円だった。街の喫茶店で60円。そういう時代だもんね。古いですよ。今とは全然違うよね」

 

 

 

―― コーヒーがお客さんの前に出るまで、どこまでをされるのですか?お店によっては生の豆を仕入れて、焙煎して、とか・・・

 

マスター「あー。そんなことないよ。焙煎なんかしないよ。自分でやれる能力なんかタカが知れてるから。Key Coffeeのやつ全部使ってる。ねえ。拘ってる人なんかもいるかもしんないけど。どうせ俺なんかは能力がないんだからさ。大きいメーカーのやつをそのまま変わらず、ずーっとやるのが。で、自分の淹れる方法とかあるじゃん?ドリップにやるか何がいいか。俺はこのサイフォンでやってるだけだから。変えない。それだけ。」

 

 

―― ブレンドの豆もずっと同じものを・・・

 

マスター「同じもの。それ以上変えない。」

 

 

―― ブレンドの豆は、どういう種類を使われるのですか?

 

マスター「何種類かあるんだよ。ブレンドも。その中で自分でいいのを選んでる。他のやつも何種類もから、それで。そういうあれだね。豆の割合とか、それは俺にはわからない。メーカーさんが教えてくれないから。絶対教えてくれない。それはしょうがないね」

 

マスター「今サイフォンなんてほとんど無いよね。あとほら、あのピンクの電話撮るんだよ。昭和の香りがするからさ。笑」

 

マスター「(コーヒーの淹れ方については)そんなもんじゃない?適当。いい加減。」

 

 

 

ログハウスのような、ウッディーで温かみのある店内。

隅の方にはマスターの言っていた「ピンク色の電話」が置いてあります。飾りではなく、今でも現役。お店の中には時折、懐かしいベルの音が響きます。

 

 

 

マスター「まあ、、友達でもいたら連れてきてよ。いっぱい宣伝してください」

 

 

―― それは勿論!今までも連れて来た友達がみんな「雰囲気がいいね」って。ゆっくりコーヒーも楽しめるし・・・

 

マスター「ここはね、この建物俺が自分で設計したの。団地へ行ってみな。みんなコンクリートの壁じゃん。だから「それなら木がいいだろう」って。単純。もう壁、壁、壁でしょ。だから、わざと。そういうこと。」

 

 

―― お店を始められるときに設計してその通りに・・・

 

マスター「そうそうそう全部。大工さんも何人かあたって『できるか?できないか?』『できるか?』って」

 

 

―― すごい拘りがあるじゃないですか。

 

マスター「いやそんなことないよ。まあ、自分の思い通りにさ。そんなもんじゃない?」

 

 

―― テーブルのこの年季が入っている感じとか・・・

 

マスター「そう。直そうと思ったけど直さないの。あるおじさんが『このままがいいよ』って。『じゃあそうしよう』って。お金がないしちょうどいいやって。笑」

 

 

 

画像右下のテーブル席。両側の黒くなっている部分は長年の使用で表面処理が剥がれ、下地の木材があらわになっている。

 

 

 

―― 笑。いぶし銀っていうとあれですが、いい雰囲気ですね。

 

マスター「いじらない。何もしない。・・・といいながら、冷蔵庫とかそういうものは壊れてくから新しいのに取り換えてるけどね。見えない所ではやる。見えるとこはそのまま」

 

 

―― グラスやカップ、ソーサーもそのままですか?

 

マスター「それもそのまま。メーカーさんもずーっと変わらずそれを作ってる。みんなビックリするよ。それの値段は?って言ったら」


 

 

ずっと変わらずに続いているお店と対照的に、世の中は少しずつ変わっていきます。

コーヒーや喫茶店も・・・チェーン店は軒並み軒数を増やし、コンビニでも「淹れたてのコーヒー」を売るようになりました。

 

 

 

―― ひと昔前にコンビニのコーヒーが始まって、最近どこでもありますよね。

 

マスター「あれは確かに便利でいいよねえ。ちょっと飲みたい時なんか。缶コーヒーよりいいんじゃないの?きっと缶コーヒーは売れなくなったよね。

 

 

―― ここ何年くらいでしょうか?スタバを筆頭にチェーン店の「コーヒー屋さん」なんかも出てきましたが・・・

 

マスター「スタバ・・・20年ちょっとじゃないの?スタバはスタバのやり方があるんだろうから。それはそれでいいんじゃない?笑 時代は変わってるよね。確かに」

 

マスター「ズレてるんだよ、俺なんかもうさ。もう完全に。だってあれが今主流じゃない。時代には必ず先端があるじゃない。だから・・・おにいさんが時代の最先端いってるのと同じでさ。笑 俺たちはもうジジイだから」

 

 

―― 失礼ですが、今おいくつに・・・ 


マスター「俺?もう70超えてるよ?だから、なんだろうな・・・やっと生きてるだけだから。まあ、身体が続く限りやるんだよ。それ無くなっちゃったら自分でやるってのもダメになっちゃうし。少しでも。少しでも誰でも、ひとりでも来てくれるうちはやるよ。そんなもん。あと何もない。いい加減。ともかくいい加減」

 

 

―― 長く続けるコツって、それかもしれないですね?

 

マスター「いやー、違うよ。長く続けるあれは。何も能力がない。何も能力がないから、続けなきゃいけない。みんな一生懸命色んなことやって。失敗したことがないって人は、逆にチャレンジしたことがない、って・・・」

 

マスター「だからね、長く続けられることだけで十分。それ以外は望まない。あとは生きてるだけ。お兄さんみたいなのが一番いいよ。笑 好きなことを出来るってことが、もう最高の幸せ。それを感じない限りはね・・・会社行ってブーブーブーブー文句言ってさ。上役が悪い会社が悪いって文句言ってる人がいるけれども、ねえ。そんなことよりもね、仕事があるだけいいだろって。でも、時代が違うから違うんだよ」

 

 

―― やっぱり、変わったな?って風に・・・

 

マスター「うーん、、、そうだね。俺たちの頃とは親が全然違うよね。子供に言う親がもうなんていうの、親自体があれなんじゃない?余計なことはするなとかさ。そういう考え方だよ。昔は逆じゃん。『一生懸命やれよ』とか『骨惜しみはするんじゃないよ』とか。一生懸命やれば身になるけどさ。それが一番だよね。みんないい加減だよな~今なぁ。親がいい加減やってるんだから。みんな子供が1人2人だからなおさらじゃない?」

 

 

―― 真面目にしっかりと、っていうのが、毛色が変わってきましたよね。

 

マスター「ねえ?」

 

 

 

「続けなきゃいけない」・・・そう言ったマスターは、長く続けるためのコツ、人生のヒントをもうひとつ、話してくれました。

 

 

 

マスター「そこにずーっといると他のもんが見えなくなっちゃうんじゃない?俺たちもそうだよ。ココにずーっといると、他のものが見えなくなっちゃう。俺もジジイだからわかるけど。絶えず見えなくなってるっていうのが時代からズレてるっていうのがわかる。新聞読んだり本読んだりしてさ。ズレてるよなって。それでも、修正ができるものと、できないものがある。だけど、逆に修正しない方がいいってね、そういうのもある」

 

マスター「全部に合わせるなんて無理なんだから。その中でもほんの何人かに合えばそれでいいわけ。そこまでしちゃえばいい。それがダメなら、もうしょうがない。だから、お兄さんみたいな若い人は何でも合わせられるんだから。今の人は今の時代を色々変えるんだよ」

 

 

マスター「それこそ酔いつぶれてるような酒飲みのジジイかなんかにさ『こんなオヤジは嫌だなあ』とか言いながら・・・話してみるとね、とてつもない知識を持ってるオヤジとかがいる。すごい人がいっぱいいますよ。そういう話を聞くと、、すごいよね。他所の人がバカにしてるようなおじさんが、実は違うんだよって。・・・今の若い人って、飲みに誘われても断っちゃうなんて話を聞くじゃない。あれ勿体無いよね。自分が出世するチャンスをいっぱいくれるのにね。苦労しないと出世なんかしないからさ。人の話を聞ける、他人の話を批判できることをちゃんと中に持ってればさ・・・勿体無いよね。息子がいたら怒鳴りつけてるね。笑」

 

マスター「やっぱり一番いいのはあれだな・・・親の言うことを聞ける子供が一番勝つよ。俺もきかない方だったから、、失敗だな。笑 親は悪いことは言わない。自分の子供の為なら嘘はつかない。と言いながら・・・自分の子供、ダメだね。笑」

 

 

マスター「・・・まあ、俺の話聞いても何にもならないよ。ただいい加減なオヤジがやってるだけ。ところでお兄さん、ファッションにこだわってるんじゃないの?」

 

 

―― いえいえ、そういうわけでは、、、

 

マスター「違うの?俺はこだわってるんじゃないかと思ってたんだけど。」

 

適当、いい加減と自分のお話を締めて、時折。マスターは私の事も尋ねてくれます。そんな「雑談」の部分をお見せするのはまた別の機会にして、、次回はお店の従業員・・・ウエイトレスさんに伺ったお話を紹介させていただきます。

 

 

 

 

 

取材協力: モック

 

〒286-0047

千葉県成田市江弁須195-8

京成線「公津の杜」駅より車で5分、「成田」駅(京成、JR共)より車で8分

JR成田駅よりバス乗車(はなのき台行)、「江弁須」バス停下車徒歩1分


営業時間 9:00~20:00(不定休)

席数:4人掛けテーブル6卓、カウンター2席

全席喫煙可  


℡ 0476-27-3910

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