• RyoFujisaki

第3回 斉藤輪業(後編)



斉藤さんのお話、楽しんで頂けているでしょうか?

自転車に向き合い50年・・・重みのあるお話に感じられるかもしれません。しかしそれは決して「重い話」ではないのです。


作業場につき、斉藤さんが日常考えていること。自転車に向き合うその思い。

斉藤さんの自転車を所有して使っているという人には、ひょっとしたら当たり前のように伝わっているのかもしれませんが・・・記事を読んで頂いている皆様にも、少しでもお伝えできれば幸いです。

 

 

今回は斉藤輪業、最終回です。

 

 

 

 

 

 

 

斉藤さん 「・・・まあ、、うちらの商売ね、職人さんっつってもまぁ気持ちはそうなんだけど、商売人もやらなくちゃいけない。」

 

 

―― ご自身で経営されるわけですからね。

 

斉藤さん 「そう。だからね、店舗張ってそういう風に。で、職人もやらなくちゃいけないでしょ、経理もやんなくちゃいけない。笑 その辺の掃除とか窓ガラスも拭いたりしなくちゃいけない。」

 

 

斉藤さん 「だからあの、まるっきりの職人とはね、ちょっと違うなっていう風にね。思ってはいるんだけど・・・で、その部分がヘタなのね。笑 商売を大きくするとか、そういう部分と職人っていうのは別なの。」

 

 

―― 経営のセンスはまた違うんですね。

 

斉藤さん 「そうそう。だからね、今自転車店で多店舗展開してるお店なんかあるでしょ。あれはね、元が自転車屋の人はいない。だいたいおもちゃ屋から来たりね、あと、、何しろね、他業種やってて『自転車も儲かりそうだから』って、展開するの。そうするとね、職人のそのものに対しての思い入れとか、そういうのが薄い。それで『売れればいい』っていう方に走っちゃうわけ。」

 

 

―― 利益が出れば、、ということですね。

 

斉藤さん 「それで多店舗やるために色々雇ったり、仕入れを安くしたり。だからね、我々の業界から多店舗やってる人もまあ、、全国で一人や二人はいるんだろうけどね。もうね、ほんと数えるほど。同族系列の多店舗とかね。弟があっちに出したとか、親戚の誰かが出したとか。だから、完全なチェーン店形式っていうのはね、まあ、、ちょっと調べてみないからわかんないけど本当少ない。だからね、その辺思い入れがうんと入れちゃうと、儲からない。笑」

 

斉藤さん 「そういうんでお店出すとするでしょ。するとお店に土地代、建物代・・・とか、そういうのから上がる利潤やなんか考えてさ。そうするとね『貸しちゃった方がいいんじゃないの?』って。一時期、家賃とかそういうのがすごく膨らんだ時なんかね、職人で食ってくより『貸しちゃった方がいいよ』ってね。自分が働いて10万円儲けるのにさ、貸しちゃえば土地や建物の賃料で20万円になるとしたらさ・・・自分は好きなこと何か別にやったりね。そういう時代もあったよね。」

 

 



 

取材の最中。斉藤さんはある時、カメラマンの持つカメラを見て・・・

 

 

斉藤さん 「うちでちょっといいカメラ買った時もさ、なんかチップいれるじゃない。息子なんかが『1500枚も撮れればばいいんじゃない?』なんて言って。で、旅行から帰ってきたら30枚くらいしか撮ってないの。笑」

 

 

―― でも、以前のフィルムと比べるとすごいですよね。フィルム時代は16枚、24枚、36枚とか・・・

 

斉藤さん 「うちらのころは現像しないとわからない頃だったからね。ガチャガチャ撮ってたらいくらあっても足りないよ。笑」

 

 

―― 今は撮り方も変わりましたよね。一発勝負で何枚!じゃなくて。ハリウッド映画の撮り方じゃないですけど・・・何枚も撮って、いいのを選ぶっていう。

 

斉藤さん 「その辺がね。一発勝負じゃないってのがかけ離れてきてるよね。」

 

 

―― 機械、メカだとどうしても、一発で決めないといけないところがある訳じゃないですか。自転車だとどういうところでしょう?

 

斉藤さん 「やっぱりあるんだよね。ここ!って所は。でね・・・若いと一発で決まるの。それがだんだん年取るとね、一発で決まんないの。笑 あれ~?ちょっと違うぞ?みたいな。もう一回ちょっと、、ちょこっとやり直すかってのが出てくるの。熟練で60、70超えてる人たちもいるじゃない。だけどね、そのくらいになると目は衰えてくる、力はなくなってくるとかね。感性も無い、とかね。若い人には違うものもあるんだけど・・・やっぱりね。ちょっとだんだん衰えてるなってのが、自分でも感じるんだよね。」

 

 

―― それでも、長い間やられているからこそ・・・というのもたくさんあると思います。

 

斉藤さん 「そう。それでこだわりがあるからね。こうしなくちゃいけないっていうのがさ。それがちょっとズレてたりすると、気になってもう一回やりなおし。このぐらいはズレてて許容範囲でいいだろうっていうのが、だんだんシビアになってきてさ。絶対これじゃないとダメ!みたいなさ。そういうこだわりがあったり・・・その人の性格かもしれないね。笑」

 

 

―― どういった仕上がりを、っていうのがありますからね。

 

斉藤さん 「自分で気に入ったような仕上がりっていうかね。でも、自転車そのものとっても『これだめじゃん!』っていうのが修理に来たりするよね。笑」

 


 

自転車の仕上がりへのこだわり。

新品の自転車を販売するときには「その自転車が3年後にどうなっているかを大事にしたい」と仰った斉藤さん。店頭に並ぶまでの調整だけではなく、修理にもこだわりがあります。


その修理、ただ手間をかけるというのではなく「きちんと直す」修理をするそう。

 

 

―― 以前に修理の値段について伺いましたが・・・今はすごく、安く直す~なんてところも多いですよね。

 

斉藤さん 「中にはそういう、金額とかシビアな人もいるし・・・直し方にもよるのね。簡単に直そうと思えば簡単にも直せるの。パンクも例えば1000円とか、800円くらいっていうと、、、まあ、他のお店がどうやって直してるかわからないけど、簡単に直せばできるよ。だけど、もう少しちゃんと・・・何が違うかっていうとね、パンクなら穴の開いたところにペトッとシールを貼るじゃない。簡単に直すとそっから空気が漏れたりとかする。ちゃんとやれば、それが絶対剥がれないシールになるとかね。」

 

 

―― 例えばその、チューブにパッチを貼るにしても、張る前にきれいにする処理があったりとか、何をどう貼るかっていうのが少しずつ変わってくるんですね。

 

斉藤さん 「自分がどのレベルでやるかって所だね。安いとこはね、、チューブの表面を溶剤みたいなので拭いて、そこにノリ付けてペタッと貼るの。」

 

 

―― 一番簡単な直し方ということでしょうか。

 

斉藤さん 「そうね。で、自分とこはまず傷をつけるのね。 自動車の塗装って知ってる?」 

 

―― ええ。下地を磨いて、ざらざらにして・・・

 

斉藤さん 「そうそう。顕微鏡やなんかで見るとザラザラしてるようにする。そこに塗装をするから、剥がれないのね。目で見てもわかんないだろうけど、そういうふうにするでしょ。ツルツルのところに塗装を吹き付けても、剥がれちゃうのね。それと同じなのね。」

 

 

―― パンク修理一つにしてもひと手間があるんですね。

 

斉藤さん 「だからまあ、うちの値段でやるならそこまでやりましょう、って。そうすると『高いなぁ』っていう人もいるしさ。高いなぁなんてぐちゅぐちゅ言うとさ、じゃあ簡単に直しちゃえみたいなさ・・・お客さんに言うこともあるんだけどさ、やっぱり手間仕事はあんまり値切んない方がいいよって、お客さんに言っちゃうの。笑」


斉藤さん 「手間仕事っていうのはさ、その人の気持ちとかあるでしょ。例えば大工さんに『この辺の壁直して』なんて言うとさ、釘を普通なら3本で済むとこに、気持ちのいいお客さんっていうさ・・・3時にお茶を出してお菓子を付けて、ね?そういう面倒見たりするところだと、3本でいい所を5本打つわけよ。笑」

 

 

―― 笑

 

斉藤さん 「それをさぁ『たけぇな』とかさぁ、そんなこと言われると3本のとこ2本で終わっちゃうわけ。笑 だからね、あんまり手間仕事値切るのはやめた方がいいよって。笑 気持ちが良ければさ、3本で済むところ多めに打っといてあげようか、みたいなさ。」

 

 

―― 気持ちの良いモノが仕上がるわけですね。

 

斉藤さん 「そうそう。お互いに気持ちいい。その代わりお金はちゃんと払ってくださいよ、みたいなさ。それを500円とか1000円値切ろうとしたりするとさ、あんまりね、、笑

モノはまあね、出来上がってるもんだからいいんだけどさ、手間仕事は値切らない方がいいよね。」

 

 

―― 特に最近は修理だったりとか、見えない手間のところを安く仕上げるっていうのは増えてますよね。

 

斉藤さん 「うん。だから、その辺りがお客さんとのつながりがないからね。出来上がったものを良しとするでしょ。そんなね、根っこが大事なんだからさ。根っこが悪けりゃ風吹くとすぐ倒れるしさ。」

 

 

―― 職人としてモノにきちんと向き合うような、そんな姿勢がすごく伝わります。

 

斉藤さん 「自分でそういうの(姿勢)を作ってそれに則って生きていかないとさ。職人さんっていうのは下手するとダラダラしちゃうからね。時間にあんまり縛られないところが出てきたりするとね。自分はその物にいかに打ち込めるか、とか。」 




先ほどのカメラの話のように、自転車やお仕事以外のことについても気さくに話してくれました。記事の尺の都合上割愛させて頂いた部分もあるのですが、趣味でされるという卓球のお話を少しご紹介します。

 

 

斉藤さん 「・・・卓球をやってるんだけどね、ラケットを試合前にお互い交換するのね。どんなラケットを使ってるか、どんなラバーを貼ってるかでその人の戦術っていうのがわかるのね。表はこれで裏はこれで・・・ってなると『この人はこんなボール打ってくるな』っていうのがわかるのね。ラバーの厚い薄いとか、粘着性が高いとか・・・高いのが今主流だけどね。回転が良くかかる。」

 

 

―― ボールをぐっと捉えるんですね。

 

斉藤さん 「うん。捉えたときに、すごい回転がかかったりする。で、粘着性が弱いと弾みがいいからこう、、パーンと打っても食い込まずに回転があまりかからず返ってくる。そういうのをさ、見てる。しょっちゅうやってる人ならさ『ここのメーカーのこれならこういうもんだ』って大体わかってるから。」

 

斉藤さん 「で、日本人の選手たちはみんな・・・相手のをみたらこう、柄の方を相手に向けて返すのね。でも外国の選手ってのは『ほいっ』っとね。笑 その辺の心の持っていき方っていうのかな。それが勝敗にどうのこうのじゃなくてさ。国民性ってあるなってさ。日本人のそういう所って、素晴らしいなって。」

 

 

―― そういう所がモノづくりにも現れてきますね。

 

斉藤さん 「昔の武士道みたいのが庶民に浸透してきて、いろんな礼儀とか作法とかさ、そういうのが出てきてるのかなって。そういうの大事にしてた方が、人間的にいいんじゃないのって。好きなのがね、江戸しぐさっていうのかな。」

 

 

―― 傘傾げとか、そういう仕草ですね。

 

斉藤さん 「そうそう!よく知ってるね。なに、渡し船なんか乗る時に混んでくると、こんだけちょっと腰をずらして座るとか。電車でもね。ちょっと狭いなと思ったら自分からちょっと動いて一つ分空けるとか。ちょっとした仕草とかね。」

 

斉藤さん 「ここ走っててもね、電信柱やなんかあるでしょ。そこに重なると事故の危険とかあるでしょ。そこを待っててやってさ、どうも、なんて挨拶する人とさ、どけどけどけ~みたいな。ちょっとその辺でさ、そういうのが無くなると、トゲトゲした社会になるよね。」

 

斉藤さん 「自分なんか思うのは・・・年寄りがわがままでしょ?キレてさ、駅員に殴り掛かったとかさ。なんか、、お前ら違うんじゃない?って。」

 

 

―― 昔からあったものが少しずつ変わってきて、っていうのをこのところ感じますね。よくない習慣が良くなるのはいいですけど、良かったと思えるものが少しずつ形を変えて、っていうのは、、

 

斉藤さん 「まあ、なかなか難しいやな。あんまりそうやってると、大人しい人間にはなっちゃうかもな。」

 


 

ちょっとしたマナーや気づかい。その人の姿勢。

斉藤さんの視点から、もう少し、そういったお話を伺ってみましょう。

 

 

 

斉藤さん 「・・・自分なんかも6号のほう(※羽田近辺)の学校まで行ったりすることがあってね。で、体育館やなんかに行ってね、なんていうの、その学校が荒れてるとね、そこのPTAの人たちの靴の脱ぎ方がグチャグチャなのね。」

 

斉藤さん 「もうその辺で気づかいというかさ。見た感じが良くないじゃない。それがだんだんね、学校が落ち着いてきたりするとね、ちゃんときれいに並んでたりするわけ。そうするとなんとなく、来てる人の人間性みたいなのがわかる気がするよね。」

 

 

―― そういう部分に出るものですね。

 

斉藤さん 「そう。だから職人も、そういう風に出していくっていうか、自然に出てくるものがないとね。もう・・・いい仕事っていうのはねそういう、普段のそういう生活から出てくるってこと。不思議だったよね。その学校が良くなってくると、靴の脱ぎ方やなんかが良くなってくる。」

 

 

―― それもPTAの方ですよね。生徒が、っていうなら「そうか」と思うのですが。

 

斉藤さん 「荒れてくるとね。親御さんもそう、変わってくるんだよね。」

 

―― 職人さんになるともちろん、作ったものにも出てくるでしょうし、普段持ってる道具をどうしているかとか。

 

斉藤さん 「そういう時にね、普段からちゃんとできるかどうかっていうね。日本の職人っていうのはね、道具をすごく大事にする。それで道具が良くないとね、いい仕事できないっていう。」

 

斉藤さん 「絵を描く人も筆をいっぱい持つじゃない。本当にすごく持ってる。そういう道具を大事にしないと、所詮はいい仕事をできない。」

 

 

―― それを武士の刀じゃないですけど、こう「いつでも切れるように」っていうような・・・

 

斉藤さん 「そうすると心構えができてくるよね。自分なんか昔ね、この仕事辞めたら日本刀の研ぎ師になろうと思ってたの。笑 研ぐのちょっと好きだったりしたんだよね。でも、うまく研げない。」

 

 

―― 専門の方がいらっしゃいますもんね。床屋さんのはさみとかも、専門の研ぎ師さんがいて。

 

斉藤さん 「ああいうのもね、その研ぐ人見ててね。雑なやつは仕上がりが雑。切れるかもしれないけど、仕上がりは雑だね。ちゃんとした人はもうね、出来上がったものが美しい。ちゃんと刃がつけば切れるんだろうけど、そこに光り輝いてるものをね。その辺でね、そういう人は砥石もいいもの使ってるんだろうし。」

 

 

―― 向き合う姿勢っていうのが、モノの仕上がりに出るんですね。

 

斉藤さん 「昔、職人っていうと『飲む、打つ、買う』みたいなさ。でもそれだとね、いい仕事できないんじゃないの?って。」

 

斉藤さん 「仕事とか、そういうのに没頭する姿勢がね。何が面白いかっていうのを自分で見つけていかないとね。で、最終的には自分で作ったものに惚れられるか、みたいな。『あ、いいもんが出来た』とかさ『これならだれにも文句言われねえよ』とか。」

 

 

―― 長くやられていると、そういったレベルは少しずつ上がっていくもんでしょうか?

 

斉藤さん 「今日より明日の方がいいもん作れるように。昨日より今日の方がいいもの作ってますよみたいなね。そういうなんていうの、前向きといったらおかしいけどさ。とにかく、昨日より今日の方が絶対いいもん作るんだぞってあるんだけどさ・・・自転車って限界あるよねって。笑」

 

斉藤さん 「そうすると、いいもの作るにはこれ使わないとだめだとかなってくるじゃない。値段高くなりますよみたいな。お客さんは『私そこまで必要としてません』みたいなさ。笑」

 

 

―― 最初に伺った「経営もしなきゃならない」ってところにかかってくるわけですね。いい歩留まりっていうのがどこかにあって・・・

 

斉藤さん 「だから、あんまり職人でずーっと突き進めない所ってあるよね。まあだけど、考えようによったら、うちは職人っていっても、職人の片隅みたいなもんですから。笑」

 

 

―― 笑 ありがとうございました。

 

 

 

 



 

ご自分のことを「職人の片隅」と仰った斉藤さん。

今日もきっとご自身の経営されるお店で、自転車と向き合っているでしょう・・・

 

 

 

 

 

 

取材協力:

 

有限会社 斉藤輪業商会

〒146-0085 東京都大田区久が原5-28-14

営業時間 9:00~19:00(火曜定休)

℡ 03-3751-7316

 

 

Photo: いわさわ

https://twitter.com/Iwasawa_i

 

 

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